ケージの中

今日は雨だった。
雨だったから、マンションの上の階の人がうるさかった。


3時間くらい、走り続ける音がした。
いくら部屋の中とはいえ、3時間も走り続けて、死にやしないかと思った。


ほぼ毎日聞こえる、ボールをつく音も、今日は一段と長く聞こえた。
トントントン(とボールをつく音)トトトトトトッ(と、ボールが手から放れた後に小さく弾む音)……
連続50回くらい。


以前、ぼーっとして、間違って上の階に行ってしまったことがある。
ドアの前に、30歳くらいの男の人が立っていた。
3歳と5歳くらいの姉妹もいた。
ドアの中から、女の人の声がした。


うるさくしているのが誰なのか、見当はついている。
かわいらしい姉妹だ。


でも、かわいらしい姉妹に罪はない。
親が悪い。
部屋の中でボールをつかせておくなんて、非常識だ。


この親は、他にも、毎日毎日、非常識なことをしている。
名付けて「シーツ問題」である。


シーツなんて、1ヵ月に1回か2回洗えばいいじゃないか。
まず、毎日シーツを洗うことが非常識だ。
(……けど、偉い)


シーツを干すときに、バタバタ扇ぐ。
ゴミがパラパラ、うちのベランダに落ちてくる。
うちの洗濯物の上に降ってくる。
どうやらわたしは、余所のガキの寝てるシーツから出たゴミの付いた服を着ているようだ。
非常識だ。


シーツを扇ぐだけじゃなく、はみ出してもいる。
手すりを超え、コンクリートの部分も超え、シーツが何もない空間に垂れ下がっている。
何もない空間とは、下の階の人間が日光を受けて然るべき空間だ。
そこに30センチも40センチもはみ出して、シーツを干している。
日照権の侵害だ。
非常識だ。


「今日も上の人、シーツはみ出してるよ」
一緒に暮らしている“天才”(固有名詞)に相談する。
「うんこ投げろ」
“天才”は、的確なアドバイスをしてくれる。


「今日もだよ」
「うんこ投げろ」


「今日も……」
「うんこ」


シーツ問題については、「いつかうんこを投げる」「わたしに勇気が出たらうんこを投げる」ということで、解決が付いている。


騒音問題についてはどうだろう。
「上の人がうるさい」
「うんこ投げろ」
「わかった。投げる」
……でもどこに?


嫌がらせで、天井を物干竿で突くという話は、聞いたことがある。
それをうんこで代用しろというのか……
天井に、うんこを……
うんこは……
頭の上に……


とにかく、みんな常識的な人間になってほしいのだ。
子どもじゃないんだから。


子どもじゃないのに、大家さんに訴えることもできず、家で「うんこうんこ」と呟いている。