メイド喫茶で働くのを後押しする家族

1リットルの涙』という本が売れているらしい。
わたしもかつて、1リットルくらいの涙を流したことがある。


1年半ほど前、メイド喫茶の面接を受けた。
メイドさんになろうと思った。


面接の予約をし、店に行くと、そこには園服を着た店員さんたちがいた。
上履きを履いていた。
上履きに名前も書いてあった。


そこで、すでに泣きそうになった。


ぐっと堪えた。


偵察のため、1日に3軒メイド喫茶をハシゴした結果、「ここしかない!」と思ったお店だった。


『わたしと同い年くらいの子がいる』
『衣装がメイドというよりコスプレなのが嬉しい』
『学園祭っぽい雰囲気のお店で馴染めそう』
メイドさんがそれほど美人というわけでもない』
など……、メイド喫茶で働くには、そのお店しか考えられなかった。


園服の店員さんの後をひょこひょこ着いて行くと、厨房の隣の事務所に通された。
すぐに園服の店員さんが、お水を持ってきてくれた。
バイトの面接で、水を出してもらえるなんて初めてで、感動した。
わたしも、園服を着て、人に笑顔で水を差し出せる、そんな人になりたいなー、と思った。


あとは、ふつうの面接と同じだった。


違うのは、合否について、こちらから電話して聞くように言われたことだった。
今まで受けたことのあるバイトの面接(本屋とか)は、お店のほうから電話をくれた。


指定された日。
その日の午後2時から4時までの間に、電話するように言われていた。
実家住まいだったので、居間に姉と母がいた。
わたしは家の電話の、受話器を握りしめながら、泣きべそをかいていた。


「無理だよ。やだよ。電話怖いよ」


「大丈夫だよ、きっと受かってるよ。あんた、わたしの妹だもん。かわいいよ。だから電話をかけてみなよ」
「約束した時間に電話をかけないなんて、相手に失礼でしょ。さっさと電話しなさい」
姉と母が、メイド喫茶に電話するよう促してくれた。


居間で姉と母に泣き言を言ったり、部屋に入って布団にくるまったり、やっぱり居間に戻ってぶつぶつ文句を垂れたりしているうちに、約束の4時は過ぎた。


4時を1分過ぎたとき、泣きべそだったわたしは、号泣した。
奇声を発しながら、涙をぼろぼろ流した。


『わたしの人生、今終わった』
と思った。


メイド喫茶の面接に受かれば、自分のことをブスじゃないと思えるようになり、この先自信を持って生きていける気がした。
お客さんにチヤホヤされれば、さらに、明るく行きていける気がした。


反対に、「不合格です」=「あなたはブスだ」という言葉を、他人の口から聞くのは、すごく怖かった。


大切な人が死んだりはしなかったし、何も失わなかったけど、1リットルも涙が出た日だった。