分かれ道

夕方、駅前で踏み切りが開くのを待っていたら、交番前でおまわりさんに必死の形相で詰め寄る、黄色い帽子の小学生を見つけた。
1年生くらい。男子。


「捕まえてよ。ちゃんと捕まえてよ。誘拐捕まえてよ。捕まえてよ。誘拐捕まえてよ」


ランドセルの横にぶら下がってる、緑でプラスチック製のは、防犯ベルか。
わたしは、たまたま立っていた数メートル離れた場所から、「もっとおもしろいこと言え!言え!」とずっと聞き耳立ててたんだけど……


同じことしか言わねぇー!!
「誘拐捕まえてよ」のループ。
エンドレス。


もうこうなったらと、露骨に近付いて行って、目の前で小学生とおまわりさんのやりとりを見た。
開かずの踏み切り1歩手前、くらいのなかなか開かない踏み切りが開くまでずっと見てた。


でもやっぱり、小学生は同じことしか言わないし、おまわりさんは終始笑顔で頷くばかりだし。


発展性がない!!


踏み切りが開いた。
このままずっと見てたら何か変化が起きるんじゃないかという、後ろ髪魅かれる思いで踏み切りを渡っている最中、ちょうど交番の前にいる子と同じ年くらいの男の子を自転車の後ろに乗せた女性がわたしを追い越して行った。


すれ違い様、彼女の独り言……もしくは自分の子どもへの忠告を聞いた。
「ああいう子って、ほんと嫌い」


自転車の後ろに乗せられた男の子は、茶色の上下の制服を着ていた。
幼稚園生なのか、私立の小学生なのか。
無表情で後ろを振り返っていた。


振り返ったままの彼は、遠ざかって行った。


後ろからはまだ「誘拐捕まえてよ」の声が聞こえる。


少年に幸あれ!
どっちの少年も!!