犬が帰ってった

土曜日から急に近所で犬の鳴き声―ものすごいキャンキャン―がするようになって、出産率の低下とか、それと平行するように飼い犬の数が増えたって前にニュースでやっていたことを思い出し……
『じゃあ、この泣き声は、子どもの泣き声が減った代わりなのか。それならば、昔より住みにくくなったわけではないのか。いや!わたしは犬の鳴き声も子どもの泣き声も嫌いだ!!
イライラする。
死にたい。
イライライライライライラ
ホウ酸団子。
区に苦情。
ホウ酸団子ホウ酸団子ホウ酸団子ホウ酸団子ホウ酸団子』


という悩みが、ついさっき解決した。
「しつけのできた犬なら、小型犬1頭のみ可」という、わたしの住んでる集合住宅。
だけど実際は大型犬だったり、2頭飼いだったり、猫が2匹飼われてたり、無法地帯。


ついさっき、2軒隣の家の主婦と子どもふたりが、ダックスフントを、有料駐車場に泊まった車に乗った老夫婦に受け渡すところが窓から見えた。


子どもふたりに犬1匹。
「バイバーイ」
「キャンキャーン」
とかやってる姿を見ながら、必ずしも「子どもの代わりに犬」というわけではないのだなぁ、と思った。


あの家の子どもはうるさいから嫌い。
媚びた目のダックスフントを好む、歪んだ愛情しか持てない人間も嫌い。


近くの1軒屋で飼われてる、いつ出会ってもわたしのことを飼い主と間違える高級そうな猫が好き。
バカな猫が好き。
利口な猫も好き。
猫が好き。
猫が好き。
猫が好き。


このあたりに引っ越してきて初めて友だちになった野良猫はもう、わたしのことを忘れてしまった。
あの猫は、上目遣いの卑屈な目で、わたしを見ていた。