岩、かわいい

テレビはほとんど観ない。
天才が観ないからという理由で、わたしもついでに観なくなったら、なんとなくそのまま4年くらいが経った。
観ないことに慣れ始めて、でもまだちょっと慣れてない頃は変だった。


「わたしはこれから、ちょっとばかしテレビを観るよ」
どうしても観たい番組があるとき、そうして不自然に、高らかに宣言してからブラウン管テレビの電源を入れた。


ところが最近では、わたしのほうがテレビが苦手になっている。
天才は、ここ1年くらいだろうか……夕飯を食べながらテレビを付け、チャンネルをものすごい早さで変えるということをよくやるようになった。
チャンネルが3周くらいしたところで、「観たい番組がないなら付けなきゃいいじゃーん」とわたしが言い、天才はテレビの電源を切る。


だけど、『鉄腕ダッシュ』だけはわけが違う。
「ねぇ、今日、日曜だよ」
「ほんとだ! 鉄腕ダッシュだ」


ふたりとも曜日の感覚がなくてよく忘れるけど、観られるときには必ず『鉄腕ダッシュ』を観る。
これも1年くらい前からの習慣だけど、10回くらいしか観られたことがない。


今日はTOKIOのメンバーが天然記念物を探していた。


わたしの大好きな動物、オオサンショウウオが見つかるか見つからないかというときには、ハラハラドキドキした。


「なかなか、いないもんだなぁ。……わッ、いた! かわいいー!!」
ついつい、目の前にいる天才というより、テレビに向かって声を発してしまった。
そういうとき、テレビを見慣れてなくて、テレビに話しかけ慣れてないわたしはものすごく恥ずかしい。
「あはは。つい話しかけちゃったよ、テレビにね。でもオオサンショウウオは特別だよね。かわいいからね。声出ちゃうよ、どうしてもね」
無駄にペラペラと言い訳をした。
「でも君がかわいいと言ったの、岩だよ……」
天才が言った。
「……」


川の岩陰に潜んでいるという天然のオオサンショウウオは、まだ見つかっていなかった。
わたしはオオサンショウウオの、あの岩みたいな背中とかが好きなのだけど、わたしがかわいいと言ったのは、岩そのものだった。


オオサンショウウオはやっと見つかった。
水中カメラによってオオサンショウウオの動いている姿が、あいかわらずブラウン管のまま買い替えてないうちのテレビ画面に映し出される。


わたしは、声を出さずにむしろ息を潜めて待った。
カメラがオオサンショウウオに寄っていって、あの、左右非対称であまりにもてきとうな目とか、一直線に長い口とかが映し出されるのをじっと待った。


オオサンショウウオの顔は、チラッと映されただけだった。
すぐに場面は変わって、今度は次の天然記念物、なんて種類かは忘れたけど亀を探すTOKIOの別のメンバーが薮の中を掻き分けていた。
わたしにとって亀は、オオサンショウウオと並んで1番好きな動物だけど、亀の顔もあまり映してはくれなかった。


「顔を……顔を……なんで映してくれないのかねぇ。残念だなぁ。もっと観たかったなぁ」
今度はテレビじゃなく天才に向かって言った。
「君ほど、亀やオオサンショウウオの顔を長い時間観ていたい人がいないからじゃないかな」


その話をしている頃には、TOKIOイリオモテヤマネコの足跡を見つけ、ガイドの人に「いま現れてもおかしくないってことですか」「そうですね。可能性としてはありうるでしょう」なんて話をしていた。


たかだか4,5年前はテレビばかり観ていたというのに、好きな番組の『鉄腕ダッシュ』さえ、展開の早さに付いていけないときがある。


イリオモテヤマネコは夜まで見つからず、固定カメラにかろうじてお尻としっぽだけが映っていた。