生きたまま捨てる

ベランダのない部屋へ引っ越すので、ガーデニングを楽しめなくなる。
本当は、もうずっと前から楽しんでいなかった。


自分が気に入って買ってきた鉢植えだったり、苗から買ってきて植えたものだったりするのに、枯れた瞬間感じてしまう、その、枯れて再起不能になった花に対する憤りが嫌だった。
カンカンに日の照ってるベランダを窓越しに見て、「今日は水をやる気分じゃない……いいや」と気分によって世話をしたりしなかったりするせいで枯れるのだとわかりつつも、枯れると「なんで枯れるのよ」と花に憎しみさえ感じた。


どの花が雨や日照りに強くて、どの花が弱いのか、5段階評価で表示してあればいいのに、と園芸屋さんや花屋さんに行くたび、いつも思った。
「直射日光の当たらないところに置いてください」などと書いてあるものもあるけど、もっとわかりやすく。
星1つとか、3つとか。
5つ。


5つのを主に買う。
1つのは買わない。
3つのがキレイでどうしても欲しくて買ってしまったら、『今日はカンカン照りだ……でも水をやる気分じゃない。は! 星3つのあいつにはなんとしてもやれねば。水をーーーーー!!』って頑張れるのに。


買ったその日に、植木鉢にマジックで星の数を書いておくといい。
忘れる心配がない。
それとも植え替えたときのことを考えて、星の形のシールを買ってきて貼ろうか……


そんなことを想像しても、実際は店で売られているときに星の表示なんてない。
店員さんに訊くでも、本やネットで調べるでもなく、これは強そうと当たりを付けて買い集めた。


それでも、道を歩けばときどき見かける「ガーデニングをしてみたけど飽きちゃいました」な庭と違って、わたしのガーデニングをしていたベランダは、他人から見たら「現在進行形で楽しんでます」というふうに見えるんだろうなぁ、という状態をキープしてきた。
常にひとつくらいは、枝だけ残って、葉も花もない鉢があったけど、それはその花に対する期待だった。
咲き終わったらもう来年は咲くことのない1年草なのか、それとも多年草なのか、調べることもなく「様子を見ていた」。
そんな鉢がいくつもあったら全体として綺麗に見えないから、様子を見るのは1鉢くらいに抑えて、他は枯れたら土ごと捨てた。
そうしてガーデニングを「現在進行形で楽しんでいる」ベランダはキープされた。


昨日、「様子を見ていた」ミニ薔薇を、いつもと違って土ごとではなく、鉢ごと捨てた。
もう鉢を使える場所はない。


今日、まだ小花のいくつか咲いているハンギングバスケットをゴミ袋に入れた。
ここ数日、水をやる気がしなかったから、寄せ植えにしていた3種類のうち1種類、白い小花だけが生き残っていて、あとの2種類は枯れていた。


今日から1日にひとつずつ、枯れている度合いの大きい順に、ゴミ袋に入れていく。
『1日にして全部枯れればいいのに』とふと思ったりもする。


そうしたら、ひとつずつなんて言わずに、一気にゴミ袋に放り込むことができる。