新聞紙を丸める早さ

昨日、ゴキブリが出ました。
見つけた瞬間、新聞紙を探しました。
ありませんでした。
新聞屋が来ても、白痴のふりをして、追い返してしまうからです。


彼氏は、新聞紙ではなく、ティッシュペーパーを探していました。
ありませんでした。
数日前に切れたきり、トイレットペーパーで間に合わせていたからです。


トイレットペーパーで、彼がゴキブリを叩きました。


尊敬しました。
トイレットペーパー越しにゴキブリを感じても発狂しないなんて、超人としか思えません。
彼にそう言うと、叩くことのできるわたしのほうがすごいと、言われました。


トイレットペーパーで捕まえてトイレに流すことはできても、新聞紙を丸めたもので叩き潰すことはできないというのです。
不思議です。
ふつう、ゴキブリが出たら、即座に新聞紙を丸めます。
ちょうど、競馬場にいる人たちが持っている、新聞紙のように。


父から教わったのでした。
その、ゴキブリの仕留め方は。
そんな父も、先日、還暦になりました。


競馬もいいけれど、たまにはスポーツなんかして、体を動かしてみたらどうかな。もう若くないんだし。あぁ、そうそう、彼のお父さんはね、競馬やらないみたいだよ。だから、ゴキブリ仕留めるとき、新聞紙使わないんだよ。ちょっと悲しいね。わたしの姓も、いつかは変わっちゃうね。変わらないのも困るけどね。


頭の中で、父に語りかけました。
ひとつの伝統芸能が失われる瞬間にしては、あまりにもひっそりとしたものでした。