ポテトチップスを共有しているわけでもないのに

例えば、「弔い」の儀式だとしたら、1人、部屋で行うのもいいでしょう。
故人が好きだった、酒を飲んだり、うどんを食べたりするだけの、ひっそりとした儀式です。


でも、これが、誕生日の場合は、違います。
本人は生きています。
それなのに、本人抜きで、友人たちも抜きで、1人、ケーキを食べます。
シャンメリーを飲みます。


どうかしています。


どうかしていることを、マンガ喫茶でやってみました。
目の前のケーキ屋で三角のケーキを2切れ買いました。
シャンメリーが、294円で売っていました。
紙コップはコンビニで買おうと、思いました。


やっぱり、シャンメリーを買うのはやめました。


シャンメリーの瓶が、1人で飲むには、大きすぎたからです。


そのマンガ喫茶には、和室がありました。
テーブルが4つ、座椅子が8つ並んでいました。
団体で使ったら良さそうな場所ですが、そんな光景は、1度も見たことがありません。
1人か2人で来ている客が、たいてい相部屋で使います。
今日は、誰もいませんでした。


「ひとり誕生日会inマンガ喫茶」を、早々に始めました。
ケーキを1つ食べました。
最終兵器彼女』の1巻を再読しました。
ケーキをもう1つ食べました。


男性客が1人、和室に入ってきました。
テーブルの上に『代紋TAKE2』を積み上げ、規則的に大きな咳払いをしながら読んでいました。
別の男性客がまた1人、和室に入ってきました。
わたしの隣に座りました。
嫌な予感がしました。
彼は畳の上に鞄をドサッと置くと、バリバリとポテトチップスの袋を開けました。
ガタガタガタ。
座椅子の背もたれを調節しました。
すぐ隣で他人(わたし)がマンガを読んでいるにも関わらず、ひとつひとつの動作に、遠慮の欠片もありません。
そのとき、わたしは『最終兵器彼女』の2巻を読んでいました。
ちせちゃんは、いつも謝っています。
いつも申し訳なさそうです。
なんて良い子なのでしょう。
生まれてこのかた、他人に申し訳ないと思ったことがないんじゃないかと思わせる、同室した2人の男に対して、激しい怒りが込み上げてきました。


特に、ポテトチップス男がむかつきました。
パリパリ、ポテトチップスを噛むのは、仕方ない……、我慢しましょう。
でも、この男は、ポテトチップスの袋を置く場所を何度も移動させるのです。
しかも、投げるように、落とすように、ぞんざいに。
そんなことしたら……


中身のポテトチップスが、割れるじゃないですかー!!


怒り心頭です。
ポテトチップスをその男と共有しているわけでもないのにムカムカしてきました。


やたらムカムカしたので、「ひとり誕生会inマンガ喫茶」は、閉会することにしました。


マンガを元の棚に戻しました。
ゴミを掴みました。
数分前に、自分がケーキを食べていたことを思い出しました。
コンビニのちょっとしたスイーツではなく、ケーキ屋の、気合いの入ったケーキです。


どんな食べ方をしようと、ポテトチップスはポテトチップスです。
マンガ喫茶にポテトチップスというのは、違和感がありません。
でも、ケーキ屋のケーキ2つというのは、違和感あり過ぎです。
その上、シャンメリーまで、選択肢のうちにありました。


ポテトチップス男にむかついていた自分が恥ずかしくなって、謝りたい気分になりました。


「ごめんなさい」


ちせちゃんはかわいい。
思わず、頭の中でものまねをしました。