変わり果てた姿

先日、街で後輩を見かけました。
彼は、高校のとき、わたしの友達と同じ部活に入っていました。
学年は2つ下ですが、「後輩」というより、「友達の後輩」でした。
たまに話をしました。
ちょっと好きでした。


後ろ姿を見て、すぐに彼だとわかりました。
15歳の頃と比べて、たくましい体つきになっていました。
それでも、彼だとわかりました。
5メートル前を歩いている彼に駆け寄って話しかけようと、思いました。
でも、携帯電話を耳に当て、電話の向こうの誰かと、話しているのがわかりました。
TUTAYAのある雑居ビルの中に、入って行きました。
目で追いかけていると、携帯電話をジーンズのポケットにしまい、TUTAYAに入って行くのが、見えました。


……もう電話中じゃないし。
……TUTAYAなら、偶然を装える。
……実際見かけたのは偶然だし。


「ようし、TUTAYA潜入!思い出話に花を咲かせるぞ大作戦開始!!」


と、意気込んだところで、ちょうどビルの入り口付近に、鏡を発見しました。


あの頃、彼は15歳で、わたしは18歳(誕生日が早い)でした。
あれから、もう何年も経ちました。
女が年を重ねて、18歳の頃より綺麗になるとは、思えません。
それに、あの頃なかった無数のリストカット痕が手首に、アームカット痕が腕にはあります。


「あー、もう、だめだ。高校時代の思い出は、美しいまま心にしまっておこう。彼にも、わたしの人生の中で、多少なりとも輝いていた、18歳のときのわたしを覚えていてもらおう」


……でも、一応、鏡見とこうかな。
……もしかして、今日、髪型ばっちりかもしれないし。
……服の組み合わせとか、イケてるかもしれないし。


鏡を見ました。


わたしの顔は……、オルフェノクでした。

仮面ライダー555に出てくる、オルフェノクの変身途中みたいに、顔にみみず腫れで文様ができていました。


そうでした。
ここ最近、出たり消えたりするタイプの、蕁麻疹に悩まされていました。
しかも、馴染みの薄い、みみず腫れタイプの蕁麻疹でした。


例えば、この顔のまま、彼に声をかけたとします。
もちろん、「いや〜。今、蕁麻疹出ちゃって、困ってるよ」という話題は必須です。
ところが、彼は、これから約束があって、TUTAYAにビデオを返したら、すぐに待ち合わせ場所に向かわなければならない……、そんな状況でないとも限りません。
礼儀正しい彼のことです。
「先輩にお会いできて光栄です。もっとお話したいのは山々ですが、僕には所用がごさいまして、早々に、失礼させて頂きます」
と、申し訳なさ全開で、去って行ったとします。


あとには、オルフェノクのわたしだけが残されます。
せめて、いつからオルフェノクなのか、早口にでも説明すれば良かったと、後悔しているオルフェノクが1人、残されるのです。


彼と私は、かれこれ、8年以上会っていません。
説明しなければ、私が8年間オルフェノクとして生きてきたと思われてしまいます。


「先輩も大変な人生を送ってきたんだなー」と、同情するポイントを思いっきり間違って、同情されていまいます。


ちなみに、オルフェノクが完全に変身すると、こうなります。

画像が見つけられなくて、変身途中のオルフェノクと、変身後のオルフェノクは、違うオルフェノクです。
でも、変身には、だいたい同じ過程を経ます。


結局、彼には声をかけられませんでした。
どうせなら、変身途中ではなく、変身後だったら、彼に声をかけられたかもしれません。


「8年間も、オルフェノクとして、“強く”生きてきたんだ」と思われたら、誤解でも幸いです。