ふたばを柔軟に

アパートのなくなった後に、ふたばがびっしり生えていた。


あぁ、そうかこの土地は……
アパートの次は、ふたばを生やす場所として使うのか。


一瞬そう思った。


きっと違う。


わたしは毎日、そのアパートの1室を覗いていた。
覗くというより、ふと見るだけで、室内は丸見えだった。
深夜、コンビニに行く途中、いつもいつも「ふと見た」。


カーテンがなかった。
本棚が大きかった。
男女が住んでいた。


深夜なのに……
電気が付いていた。
洗濯物が干してあった。
女が男の髪を切っていた。


わたしの住んでいる部屋と、そっくりだった。
ダメなところがそっくりだった。


アパートがシートで囲われたとき、改装するだけだと思った。
ショベルカーが突っ込んで、どこかの部屋の浴槽がむき出しになっても、改装するだけだと思った。


今日、わたしは初めて、洗濯機に柔軟剤を入れた。
今まで、柔軟剤を使ったことはなかった。


あのアパートに住んでいた男女が、今もどこかで、2人で暮らしていたらいいな、と思った。


わたしは、柔軟剤を使うようになったけど、カーテンはまだ買っていない。
彼らは、柔軟剤は使っていなくても、カーテンはもう買ったかもしれない。
きっと、変化している気がした。


小さいけれど、良いほうに、変化している気がした。