ゲーム脳をめざす
父はイカを食べない……
姉は煮物が嫌い……
わたしはラーメンを一生食べない予定である……
そういった家族の好みを覚えようとしない母が嫌いだった。
ところが先日、実家で暮らしている姉が、わたしの部屋に遊びに来るというので、夕食を振る舞おうとスーパーに行ったときのことだ。
わたしは、ペットボトルのずらりと並ぶ棚の前にいた。
食材を選び終え、ついでに姉の喜びそうな飲み物を買おうと思った。
でも、姉の喜びそうな飲み物というのが何なのか、全く思い出せなかった。
実家で一緒に暮らしていた1年前には、確かに知っていたはずだ。
それなのに、たった1年離れて暮らしていただけで、今では全く思い出せなくなっている。しかも1,2ヵ月に1度は実家に帰っているというのに。
『コーヒーを飲めないことは覚えている。
あと、おしるこも嫌いだ。
……そもそもペットボトルにおしるこはないか。
紅茶はどうだったか。
午後ティーを飲んでいたのを見たことあるような、ないような……』
10分後、わたしはカルピスソーダを買うことに決めた。
子どもの頃、2人で、「うちのカルピスは薄いけど、むかいの家のカルピスは濃くて羨ましいね」という話をしたことがあったからだ。
それに、姉が炭酸飲料を好きなことも思い出した。
数時間後、姉が部屋に来た。
わたしの作ったスパゲッティーを2人で食べ、とりとめのない話をした。
会話の中で、姉は自分のことを「お姉さん」と言った。
昔から、姉はわたしの前で、自分のことをそう呼んでいた。
わたしが姉をそう呼ぶからだ。
でも1度、姉は間違えて自分のことを「お姉ちゃん」と言った。
わたしが姉をそう呼んでいたのは、もう20年近く前のことだ。
姉も、家族のことを忘れ始めている。
このままだと、父は自分のことを「お母さん」と言い……
母は姉にモモヒキを買ってきて……
姉はわたしのことを「お父さん」と呼び……
わたしはお酒を一滴も飲まない母に芋焼酎を勧めるように……
なってしまうのではないかと、心配になった。
早急に、NintendoDSの『脳を鍛える大人のDSトレーニング』をやれば、なんとかなるかもしれない。
今度実家に帰るとき、持っていこうと思った。
でも、ひとつ問題がある。
物忘れ以前に、うちの家族は仲が悪い。
みんなでゲームをするなんて、ありえないのだ。