ドラえもんにはできるかな?
わたしと天才が同棲を始めてから、1年が経った。
そろそろ良い頃合いではないかと、どちらからともなく言い出した。
いや、むしろ遅すぎたのかもしれない。
もっと早く行動を起こしていても良かった。
今となってはそう思う。
わたしたちの起こすべき行動……
それは、デパートに行って、てきとうなカーテンを買ってくることだ。
わたしたちは、1年間、カーテンのない部屋で生活していた。
服を着替えるとき、洋室とリビングの間にある戸を閉め、リビングで着替えをした。
ベランダの工事があったときにも、業者の人と窓越しに目が合うのが嫌で、同じようにしてリビングで過ごした。
あぁ、やはりわたしたちは行動を起こすのが遅すぎた。
もっと早くにカーテンを買っていれば、こんな不便な生活をせずに済んだのだ。
しかし、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
今を生きよう!
ということで、デパートに行き、カーテンを買ってきた。
わたしたちは2人で、カーテンの付いた部屋を見ては、微笑み合った。
やっと、1人前の人間になれた気がした。
でも、このとき、カーテンの本当のすごさに、わたしたちは気付いていなかった。
翌朝、メールチェックのために洋室のパソコンに向かっていた天才が、突然立ち上がって、興奮した声で言った。
「カーテンすげぇ!カーテンすげぇよ!!光、遮ってるよ」
それまで、昼間にパソコンに向かうときは、眩しくてモニターが見辛くても、それはやむを得ないことだと思っていたらしい。
そんな一部始終を、先日美容院に行った際、雑談のひとつとして、美容師の女性に話した。
すると、彼女が訊ねた。
「他にも、足りない物とかないんですか?」
「え〜っと……、タンス。タンスがないですね」
服は押し入れの中に直接、たたんで置いている。
だから、押し入れのふすまは、タンスで言えば引き出しのようなものである。
そう考えると、うちの押し入れは、タンスと何ら変わらない。
もはや、うちにはタンスがあると言っても過言ではないのではないか……
でも、実際、「タンスがない」と口にして以来、あるべきタンスがないことが、気になって仕方ない。
ここ数日、通販雑誌を開いては、タンスのページばかり見つめている。
しかし、タンスを買うにあたって、ひとつ問題がある。
長年使ったタンスを捨てるのは、けっこう勇気がいることだ。
寂しさがともなったりもする。
それと同じように、1年間タンス代わりに使っていた押し入れをお払い箱にするのは気が引ける。
「さぁ、押し入れさん。今まであなたには、タンスとしてよく働いてもらったけど、今日からあなたはタンスではありません。あなたには押し入れとしての無限の可能性が広がっています。さぁ、どうぞご勝手に」
そんな薄情なことは言えない。
情に流され、タンスを買えない日々がこれから何年か続きそうだ。