実況中継
えー、只今、私の家にお客さんが来ております。
繰り返しますが、お客さんが来てるんです!
さらに繰り返しますが、家に、住人以外の人がいるのです!!
これは、すごいことです。
もしわたしたちがハムスターだったら、縄張り争いから噛み合い、殺し合いに発展しているところです。
以前、天才が家に友人を連れてくると言ったとき、わたしはその前夜、メラトニンをオーバードーズしました。
メラトニンは眠れるサプリメントなので、それを大量に飲めばたくさん眠れ、お客さんが家に来ているという状況から、逃避できると思ったのです。
まかり間違って死んでも、それはそれで仕方ないと思いました。
いわば、わたしは、「お客さんが来るから自殺未遂をした」女です。
だって、お客さんが来るって、たいへんじゃないですか!?
Tバッグの紅茶なんて出したら、一生ばかにされるだろうから、紅茶は葉っぱから煎れなきゃならないし……
抹茶のケーキなんて出したら、「わたし、抹茶嫌いなんです」って言われて気まずい思いをするかもしれないし……
チョコレートケーキなんて出したら、「わたし、チョコ嫌いなんです」って言われて気まずい思いをするかもしれないし……
ショートケーキなんて出したら、「わたし、そもそもクリームだめなんです」って言われて、客にフォークを投げつけられるかもしれないし……
その前に、ケーキ屋でケーキを選ぶ間、ショーケース越しに店員と向き合うという状況からして苦痛です。
というわけで、今日も実家に逃げようとしました。
逃げようと思って駅に向かったら、駅前の商店街でカメが売っているのを見かけました。
カメと会話しているところを、天才とその友人に見つかってしまいました。
3人でにこやかに家に向かいました。
にこやかに家の中に入りました。
わたしだけが、にこやかな笑顔のまま、蟹歩きで居間を後にしました。
そして別室に閉じこもり、引きつった笑顔でキーボードを叩いている、というのが、現在の状況です。
居間から、天才と友人の声が聞こえてきます。
ふたりは頭がいいので、わたしにはわからない、難しい話をしています。
わたしの知らない単語が、たくさん聞こえてきます。
結局、紅茶もケーキも出しませんでした。
ふたりは今頃、さっきコンビニで買ったボルビックを飲んでいることでしょう。
わたしもちょっと喉が渇いてきました。
居間にボルビックを飲みに行こうと思います。
ボルビックを飲みに行ったついでに、ちょっと会話に混ざってみようかな……
『できるかな できないな』
(居間から会話とともに聴こえてくる、「トルネード竜巻」の曲より引用)