昼食は菓子パン

パン屋でパンを買った。
店を出た瞬間から、食べ始めた。
歩道を歩いているときも、信号待ちをしているときも、横断歩道を渡っているときも、パンを食べた。


いつもそうだ。
菓子パンとかお菓子とか、甘いものは、買った瞬間に食べ始めてしまう。


あとちょっとで家に着くというところで、パンをひとつ食べ終えた。
そのパンは、ココアパウダーのかかったパンだった。
指がココアパウダーまみれになった。
指と指をこすり合わせて、払おうとしたけど、落ちなかった。
ココアパウダーは、案外手強い。


『きっと、口の周りにもココアパウダーが付いてるんだろうな……』と思った。
『でも、まぁ、いいや』と思った。
『きっとそれも、払ったくらいじゃ落ちなさそうだし』


そんなとき、ベビーカーをひいた、わたしと同い年くらいの女の人を見かけた。
桜の木を見上げていた。


わたしもつられて、桜を見た。
きれいだった。


そこでまた、口の周りにココアパウダーが付いていることを思い出した。
小走りに、家を目指した。


例えば……


わたしが帰る家には、物心付いた年頃の子どもが待っていたとして……


「ただいま」と、買い物から帰ってきたお母さんの口の周りにココアパウダーが付いてたら嫌だろうな……


と、想像した。


「はい、おみやげ」とパン屋の袋を手渡されて、その指にも、ココアパウダーが付いていたら……


ほんとに嫌だ。


家について、鏡を見たら、やっぱり口の周りにココアパウダーがたくさん付いていた。


ツバを付けて拭いた。


当分、子どもを持つのは無理だな、と思った。