自給自足
夜の9時半に、どうしても爪磨きセットが欲しくなって、10時閉店の薬局まで自転車を走らせました。
薬局に着いたと思ったら、シャッターが閉まっていました。
シャッターには、「本日、棚卸しのため9時に閉店します」という貼り紙がしてありました。
爪磨きセットはコンビニにあるかもしれない、と思い、近くのコンビニを2軒覗いてみましたが、どちらにも、「爪磨き」しか置いてありませんでした。
わたしが欲しいのは、「爪磨き」ではなく、「爪磨きセット」なのです。
「爪磨きセット」に含まれる何かが重要で、そのために「爪磨き」1つだけを買って帰るわけにはいかない……
そういうことではないんです!
必要なんだかどうなんだかわからないけど、いろいろなものがセットになっている、そこにワクワクがあるのです。
なので、その後、ワクワクを求めて西友に向かいました。
既に、夜の10時を回っていました。
西友は、1キロメートル先にありました。
わたしの体力では、自転車で行ける距離の限度は、800メートルくらいです。
「限界を超えて、頑張ってるわたし、かっこいい!!」と、気分が高揚してきました。
そもそも深夜に爪磨きのみを求めて西友に向かうわたし、かっこいい!
ノーブラ、ノーメイク、眼鏡にジャージ、iPodnanoを首からぶら下げて、ノリノリだけど鼻歌は恥ずかしいから、口をパクパクしてる、まるで鯉みたいなわたし、素敵!!
自画自賛しながら最高の気分で西友に着いたのですが、爪磨きセットは置いていませんでした。
仕方ないので、「爪ピカッシュ」いう、「たぶん紙ヤスリとの違いはザラザラが激しいか激しくないかだよね」と、わざわざ言ってみたくなるような、そんなただの紙を買いました。
この時点で、わたしの、「セットでワクワク」という野望は断たれました。
また1キロメートル自転車をこいで、家に帰りました。
途中、水分補給のために、自動販売機でアミノ酸ドリンクを買いました。
自転車を停めて、アミノ酸ドリンクを飲んでいるとき、ふと空を見上げると、月が見えました。
驚くほど、何も感じませんでした。
爪磨きセットを買えていたら、「わぁ、月だ」と感動できたのに、と思いました。
今のわたしは、爪磨きセットで補給しない限り、感動とか感激とか、そういう感情は持てないのだと、気付きました。
そのことに気付いたら、悲しくなりました。
悲しさは、いつ、何によって補給されたのでしょうか。