猫釣り

引っ越しました。


引っ越してまだ6日しか経っていないのに、もう近所に友達ができました。
新しい友達は、トラ模様で、尻尾が通常の半分しかなくて、微かにびっこを引いている……、野良猫です。


その猫とわたしはすでに友達だけれど、どういう状態にならば野良猫と友達になったと言えるのか、さっぱりわからないという方のために、そのへんについて書きたいと思います。


基準は、けっこう簡単です。


猫がわたしのまわりを走り回ったら、わたしと猫は友達です。


ということで、まず、猫を走り回らせるための第一歩として、猫じゃらしが必要になります。
今日は、ちょうど近くに猫じゃらしが生えていたのでそれを使いましたが、猫じゃらしがみつからないときは、野良猫と遊ぶためにあらかじめ買ってある、ラビットファー製の人工猫じゃらしを家に取りに帰ります。


次に、猫から3メートルくらい離れたところにしゃがみます。
そして、あたかも1人遊びのように、猫が興味を持ってくれるまで、猫じゃらしを左右に動かし続けます。
このとき、猫が車の下に隠れていたりすると、道行く人には、本当に1人遊びをしている変な大人にみられてしまうので、「できれば早くじゃれ始めてほしいなぁ」と願いながら、あらゆる動かし方で、猫が猫じゃらしに興味を持つよう工夫します。


猫は次第にじゃれ始めますが、初めのじゃれ方は、まだまだ警戒の色が濃く見えます。
そーっと、そーっと、近づいて来て、片手でひょいひょいとじゃれては、すぐに我に返って、元いた位置まで戻って行きます。
じゃれては戻るの繰り返しのあと、だんだん、猫が我に帰る頻度が下がってきます。


両手をぺたぺたと地面に打ちつけ、猫じゃらしを捕まえにかかります。
猫じゃらしの動きを見る合間に、時々わたしの顔を見ていたのが、全然見なくなります。
ついついじゃれるのに夢中になって、わたしの傍に近づきすぎたことに気付いて、サササッと戻っていく、というのもなくなってきます。
このあたりで、だんだんだんだん、猫がわたしの近くに来るよう、仕向けます。
猫が、わたしの体すれすれのところでじゃれるほど夢中になってきたら、今度は逆に、始めのように、猫じゃらしをわざと自分の体から遠ざけ、体の回りに円を描くように大きく動かします。
膝も使うと、さらに大きく動かせます。
長縄の、縄を回す人みたいな、リズミカルな動きを目指します。


そうすると……、猫は、走ります。
走り回ります。


これで、もう、わたしと猫は友達です。


今回も、この、「秘伝!森にえ式猫フィッシング」(フィッシングだけど友達です。釣ってるけど友達です)によって、猫と友達になったわけですが、その数時間後、友達になった猫と違う場所で出会ったら、逃げられました。


でも、逃げられる直前、わたしは見ました。


猫は、動かない草をぺたぺたと触り、じゃれようとしていました。
「変だな。さっきの草は動いたのに」と、不思議がっているように見えました。


猫には、わたしが必要なのです。
そのことを猫自身に気付かせるには、まだまだ日数が必要です。


わたしの顔を見た瞬間、「じゃれるぞ」という構えをするようになるまで、その猫のいる場所に、通い続けるつもりです。
顔を見るだけで、構えるようになったら、わたしたちは親友です。


以前親友になった猫は、保健所に引き取られました。
親友になると、別れのときが来たとき辛いけれど、それもまた人生です。