路上教育

今日、新宿を歩いていたらキャッチセールスらしき人に「すいません」と声をかけられた。


わたしはすかさず、「すみません。わたしは急いでいます」と答えた。


心の中で、『完璧だ』と思った。


1ヶ月くらい前、同じように、キャッチセールスの人に声をかけられた。
その人は美容師だった。
「思いっきり怪しく見えるかもしれないけど、怪しい者じゃなくて、美容師なんですよ」と言っていた。
その後も何かつらつら喋っていたけど、わたしは聞かず答えず、通り過ぎようとした。


そしたら、その人に注意された。


「急いでるんなら、急いでるって言ってくれてかまわないんだけど」と。


『あぁ、意思表示しないわたしってなんて悪い人間なんだろう』と、一瞬、本気で反省した。


本当はたぶんわたしは悪くないのだろうけど、またそんなふうに落ち込むのは嫌なので、次からちゃんと意思表示すると心に決めた。


だから今日は、声をかけられた瞬間に「急いでいます」と答えた。


「急いでいます」と言ったからには急いでいるふりをしなければならないような気がした。
それまでゆっくり歩いていたのに、それから急に早足で新宿の街を歩いた。
近くにあったアルタに急いで入って、急いでアルタを出て、急いで駅に向かった。


急いで電車に飛び乗ったとき、『わたしはなんで急いでいるんだろう』と思った。


『あぁ、意思表示をしたんだっけ』と、思い出した。
『完璧だ』と、もう一度思った。