バスが在りますよ

夫のぶんの確定申告書作成がやっと終わった。
早くからちびちびやっていて、トータルで7時間くらいかかった。
時給800円として、5600円。
これを「確定申告書作成控除」という名で「扶養控除」とかと同列の扱いで収入から引かせてもらいたいなぁ、と思った。
本当は時給850円が妥当だと思うんだけど、ここで850円と書いたとする。
そしたら、850×7を計算して……


うわーーーーー!
いやだ!!
計算もういやだ。
電卓はじくの、もう当分いい。
来年までいい。
来年この時期が来たらまた「わたしの存在意義がここにある〜♪ こ〜こ〜だけに〜〜〜」って、やり初めだけちょっと嬉しくなったりするんだけど。


今回は、ラストスパートってところで「ごめん。確定申告書作成という大仕事がわたしの脳を圧迫している。このままだと……」
と言って、いったん全部引き受けたはずのこの仕事を、夫に手伝ってもらった。
「このままだと……」の続きは口に出さなかったけど、「確定申告作成を苦に」自殺しかねなかったからだ。
わたしの命はとっても軽い。


というわけで、最後の2時間半はふたりでこたつに入ってやった。
「頭がおかしくなるー」
「どんどん意味がわからなくなっていくよ」
「そもそもこの説明書書いた役所のやつ、頭おかしいだろ」
という呟きも、ひとりで心の中で呟くよりは、ふたりで声に出して呟いていると、明るく楽しく、頭がおかしくなれた。


夫は、事務所兼自宅の住所を書き、「賃貸物件」と書き、その下に説明書どおり「建物」と書いたとき、1番やるせなさを感じたようだった。


「これ、おかしいだろ。『建物』って!?」


言われてみればおかしい。
建物以外の事務所を想像してみた。
パソコンからふと目をそらし、見上げれば青い空。
電線。
カラス。
またパソコンに視線を戻すと、足にふわふわしたものが触れる。
いつの間にやら馴染みの野良猫が……


って!? 「建物」じゃなく「土地」のみの青空事務所が存在するっていうのか、役所の方よ。


とはいえ、わたしは昔もっと理不尽な事務仕事を3ヶ月だけやっていて、なんかいろいろ嫌になって、「公務員いやー」ってなって辞めたことがあるから「建物」くらいじゃ驚かない。


学校事務をやっていたときに聞いた、1番意味のわからない言語。
それは「在バス承認」。
職員が「バスで通勤します」とか、「出張でバスを使いました」とか言ってくるとする。
そしたら事務職員であるわたしはバス会社に電話し、本当にそこにバスが通っているという確認を取らなくちゃならない。
なんか書類をもらうんだったか?
そして確認が取れたら書類を作成し(バス会社からもらった書類を添付し?)、市内の学校事務職員たちの作成した書類を取りまとめてる機関(この人たちも公務員)に提出。
幸いわたしは、「あぁ、その区間なら前に在バス承認取ってあるはずだからやらなくて平気だよ」と「在バス承認」という言葉を先輩職員から聞いただけで、実際作成せずに済んだ。
ひとつの学校につき1回「在バス承認」を申請すると、他の職員が同じ区間のバスを使っても、申請しなくていいらしい。


2000年。
もうネットもあった時代。
「在バス承認」もなにも、バスが在るものは在るんだ。


「建物」があることや「バス」があること、住所も電話番号も記載された領収書を添付しているにも関わらず、通った病院や薬局がたしかにそこにあることを証明するために、1軒1軒住所と電話番号を書かないといけないこと。


役所に提出する書類を作成してて頭がぐらぐらしてくるのは、当たり前のように在るものを「在るよ。在るんだよ」と主張しなけらばならない苦痛が1番大きいように感じた。


ところでわたしは誰ですか?
働いてなくて、夫の、妻であることを主張するために、ぺらっぺらな紙1枚、名前と住所くらいしか書くことのない自分の確定申告書はこれから作成する。