わたしは50%の確率でインフルエンザにかからない

病院に、インフルエンザの予防接種を受けに行った。
受付で「今日は、どうなさいました?」と聞かれ、「予防接種を受けに来ました」と言えばいいものを、「ワクチンを……」
と答えてしまった。


『「ワ」から「……」まで、どんどん声が小さくなっていくところなんて、わたしはワクチンを切実に求めている発展途上国の人みたいじゃないか!? こんなこと考えること自体、どのワクチンだかわからないけど、何かのワクチンを切実に、本気で求めてる発展途上国の人に失礼じゃないのか……』


と、へんに落ち込みながら、ジャンパーを来たままソファーに座り、看護師さんから受け取った体温計で熱を計った。
検温終了の音を聞いて体温計を取り出すと、37.5℃。
体温計と一緒に受け取った説明書に、37.5℃以上ある人、風邪の兆候がみられる人は予防接種を受けられないと書いてある。
説明書と体温計を見比べながら、せっかく病院まで来たのに受けられないかも、と絶望的な気分になった。


そこへ看護師が、「お熱計り終えましたね。体温計お預かりします」と受付から出てきた。


「いえ。あの……失敗しちゃって」
と答えたら、笑顔で戻って行った。


『きっとわたしの着てるジャンパーと、それからユニクロヒートテックセーターとヒートテック下着がポカポカで、それでわたしの下着と肌の間にとっても温かい空気が閉じこもっていて、それで、それで……』
ジャンパーを脱いで服をパタパタさせてから、『熱がありませんように』と念じながら再度計った。


今度は36.5℃。


そして2回目は看護師が出てくるのが早かった。
「ピピピッ」の途中くらいからもう出てこようとする姿が見えた。


36.5℃と表示された体温計を、そのままスイッチを切らず、誇らしげに看護師に渡した。


その後、順番を待ちながら、ソファーの横にあった水槽のニモ(10匹くらい)と、その他ヒラヒラした魚を見ていた。
ニモを指で追って、逃げられていた。


診察室に呼ばれ、医師から「予防接種1回だと、インフルエンザに感染しない確率は50%です。2回受ければ80%に上がりますが、100%にはならないので、わたしとしては2回目まではおすすめしません」という説明を受けた。
説明を受けながら、すでにヒートテックセーターの袖をまくりあげてスタンバイしていたら、「まだ下げてていいですよ。それから利き腕じゃないほうの、左腕に打ちますから」と言われた。


注射は一瞬で終わり、テープで貼ったあとに染みてきた血を拭いてくれた時間のほうが長かった。


診察室を出ると、わたしが診察室に入る前にはいなかった、マスクをした患者が待ち合い室のソファーに座っていた。
『わたしがインフルエンザに感染する確率は50%。50%……』


ニモを見ながら、会計のために呼ばれるのを待った。