ちょっとハイカラさん
ファミレスで、母が息子(推定3歳)に言うのを聞いた。
「顔ヤケドしてねぇ、目も見えなくなって、鼻も息できなくなっちゃうんだって。ヨー君いいの?」
大変だ!
いいはずがない!!
彼らとわたしは、背中合わせの席だったので、声は聞こえるが状況はわからなかった。
何か熱い物を危なっかしく扱ったか、あるいは、いたずらしたのかもしれない。
わたしは子どもの頃、下りのエスカレーターが恐かった。
乗るのに躊躇するたび、母に言われていたことがある。
「お父さんに頭かじわられるよ」
「かちわる」を「かじわる」と間違えていたところが、いっそう恐かった。
親子の会話に半分耳を傾けながら、わたしは昨日買った『頭のいい女、悪い女の話し方』を読んでいた。
目次をざっと見ると、「アラさがしばかりする」「不満ばかり言う」「思い込みで話す」等の文字が並んでいる。
ひとつひとつ本文を読みながら、当てはまるものには目次の余白に×を付けていった。
×ばかりで落ち込んだ。
「顔ヤケドしてねぇ、目も見えなくなって、鼻も息できなくなっちゃう」は、この本に書かれた、よくない話し方の、どの項目に当てはまるのだろうと、ふと思った。
でも、当てはまりそうなものはなかった。
かろうじて当てはまりそうなのが、「流行語を使って今時ぶる」という項目だった。
それはわたしが×を付けなくて済んだ数少ない項目のうちの1つである。
なぜわたしがそれをクリアしているかというと、流行語を知らないからだ。
友達もいないし、テレビは配線がうまくできなくて、ずっと見ていない。
だから、わたしが知らないだけで、「顔ヤケドしてねぇ、目も見えなくなって、鼻も息できなくなっちゃう」は、流行語なのかもしれない。
「頭かじわる」も、当時の流行語だったのかもしれないな、と思った。
だとしたら、母は恐い人ではなく、ちょっとハイカラな人だったのかもしれない。