歯と無と小西真奈美さん

久しぶりに日記を書こうとしたら、書きたいことがふたつあって困った。
ふたつも日記を書いたら、目が疲れて発狂してしまう。
だから、書きたいふたつの内容をまとめてひとつの日記にしてしまおうと思う。
書きたいふたつの内容というのが、要約すると、ひとつが「虫歯になったので死にたい」ということで、もうひとつが「小西真奈美さんが好きだ」ということ。


このふたつをまとめて、「小西真奈美さんを好きなわたしは、虫歯になったので死にます」という内容の日記を、以下に記そうと思う。


と、思ったけどやっぱり、もう少し内容を絞り込まないと、長い日記になってしまいそうだ。
そうすると目が疲れて発狂するので、内容を絞り込むことにする。


精一杯絞り込んで、「小西真奈美さんの歯が好きです!!」という内容の日記を書くことにした。


でも本当は、小西真奈美さんの全てが好きなので、これだと事実に反する。


小西真奈美さんの全てが好き。
全てを知らないけれど、知らない部分も含めて全部好き・・・・・・
あたかもラブソングのように小西真奈美さんに想いを寄せている。


そんな小西真奈美さんの写真集を、先日池袋ジュンク堂で買った。
小西真奈美さんの写真集と一緒にレジに持って行ったのは、歯に関する本だった。


歯に関する本を探すのはたいへんだった。
まず医学書コーナーに行った。
医学書コーナーにいる人たちは、みんな知的ですごい人に見えた。
早くこの区域から抜け出さなければ、と焦ったけれど、なかなか歯に関する本は見つけられなかった。
その辺一帯をぐるぐるぐるぐる、回った。


店員に訊こうにも、文芸書コーナーなどと違って、全然店員が通りかからなかった。


医学書コーナーの中を5周くらいしたところで、やっと店員が通りかかった。


いつもなら、店員に何か尋ねるときは、まず何人かいる店員の中から、わたしを傷付けなそうな人・・・・・・、1番穏やかそうな人を選ぶ。
尋ねる相手を決めたら、今度は、話しかける台詞を一字一句決め、そしてやっと話しかける。
でも今回は本探しと店員探しに夢中で、そんなことはすっかり忘れていた。


初めに通りかかった店員に、「すみません」と声をかけた。
声をかけたはいいが、何を言っていいかわからなかった。


頭が真っ白になって、動揺して大きな声で勢い良く言った言葉は、「すみません、歯!!」だった。


「すみません、歯・・・・・・」ならまだ良かったけど、「すみません、歯!!」だった。


そのあと、「歯!!」で勢いが付いてしまったせいか、いつもより3倍くらい大きな声で、「すみません、歯の磨き方の本ありませんか」と言い直した。


知的ですごくて、最先端の医療を学ぼうとしている立派な人たちの間を縫って案内されたのは、ぐるぐる見て回っていた棚の中のひとつだった。
わたしの頭の中では、医学書コーナーにいる全員が医大生や看護学生なので、20代で初めて「わたしの歯の磨き方は全然ダメらしい」と気付いて、歯の磨き方の本を買いに来たわたしは、すごいバカで、どれだけバカかをそこにいる全員に見透かされている気がした。


そこにいるのがいたたまれなくなって、ろくに内容も確認せず、歯に関する、やたら高い専門書を2冊、お店のかごに入れた。


そのかごを持って、今度は写真集のコーナーに行った。
小西真奈美さんの写真集を慎重に手にし、先ほどカゴに入れた歯の本2冊の上に、そっと重ねた。


レジでそのかごを店員に渡したら、「こちらのビニールは剥がしてもよろしいですか」と、写真集をこちらに見せて訊かれた。
慌てて、「いえ、あの、剥がさないで下さい」と答えた。
家に帰って、そーっとそーっと、ビニールを剥がす楽しみがなくなってしまう。


次に、「単行本にカバーはおかけしますか」と、歯に関する本を持ちながら訊かれた。
「そのままでいいです」とあっさり答えた。


そうして買った、歯の本2冊と、小西真奈美さんの写真集1冊。
歯の本を読むと、「わたしの奥歯は、いつかは抜かなきゃいけなそうだ。歯を抜かれるのは嫌だから死のう」と歯と死のことで頭がいっぱいになる。


小西真奈美さんの写真集は、音が出るわけでもないのに、テレビの音を消して、1ページ1ページ、ためらいながらめくっては、息が詰まる。
世界が、小西真奈美さん一色に染まる。


歯のことを考えると死にたくなり、小西真奈美さんの写真集を開くと無になれる。
それが、ここ最近のわたしだ。