特定の人に渡すために作る名刺

いつのまにか夫のことを「天才」と書くのを止めていました。
たぶん風俗に行ったからです。
「でも風俗に行くのが天才じゃないんならニーチェはどうなんだ、天才じゃないって言うのか?太宰さんはどうなんだ?むしろ天才はみんな風俗に行くぞ」と夫に言われそうなので、仕方なく夫の呼称を「天才」に戻すことにします。
と言っても本人は「天才」という呼び名を特に気に入ってはいないようです。


で、今日、文房具屋から帰ってきたわたしは、「じゃ〜ん」と言いながら、文房具屋の、紙でできた袋の中から、緑色のファンシーなペンを取り出し、天才に見せました。
「さらにじゃ〜ん」と言いながら、猫とかウサギとかを型取った『モコモコシール』を袋の中から出しました。
「そしてそしてじゃ〜ん」と言いながら、名刺サイズの無地の紙を取り出しました。


「これでアンディーメンテのジスカルド氏に渡す名刺を作るのです!!」
「手書きで?」
「うん」
「シールも貼るの?」
「うん」
情報カードに?」
「う?」
「その紙、情報カードだろ」
「ん?名刺サイズって書いてあるよ」
「だから名刺サイズの情報カードだろ」


天才に言われ、よく見ると『名刺サイズ』という文字とともに『情報カード』と書いてあることに気付きました。
あと、100枚入りとも書いてありました。


ジスカルド氏主催のオフ会のような運動会に参加し、ジスカルド氏に「初めまして」と言おうと思ったけれど・・・・・・、初対面の人に「初めまして」なんて話しかけるのは無理だから「初めまして」の代わりに名刺を作って渡そうと計画したのです。


あと「名刺です」と渡す行為も、1人に対してが精一杯なので、残りの99枚の情報カードは必要ありません。


さてさっそく名刺を作ろう!
猫のシールはどこに貼ろう?
ジスカルド氏は、猫のシールがどの辺に貼ってある名刺が好みだろうか?
ウサギとクマならウサギ派か?クマ派か?


と考えながら、情報カードの封を開け、取り出した紙はぺらっぺらでした。
これじゃ名刺になりそうもありません。
こんなぺらっぺらの名刺を渡したらぺらっぺらな女だと思われかねません。


「明日別の文房具屋に行って、名刺サイズの情報カードじゃなく、名刺サイズの名刺を買ってくるよ。これは情報カードだから情報を書こうね。メモ用紙として使おうね」とわたしが言うと、「その大きさ
、使い道ないんだよなぁ」という天才の冷たい独り言が聞こえてきました。


独り言に違いないのであまり気にしません。


「あぁ、早く名刺を作りたいなぁ」とわたしも独り言を言いました。


そんなわたしたちは、アンディーメンテ運動会に行くという同じ目標に向かっています。
同じ方向を向いています。
同じ・・・・・・
同じ・・・・・・
少なくとも同じ地球の上にいます。